生成系AI

最近、生成系AI(ジェネレーティブAI)が急激に進歩しています。これまで、言わば色分けのようなことしかできなかったAIが、データを作り出すという処理もできるようになってきています。草分け的存在のうち特に有名なものがChatGPTで、ニュースでも多く取り上げられていたので、名前を知っている方も多いと思います。

生成系AIが人間の仕事に与える影響は極めて大きく、産業革命以来の革命的な出来事だと言う人がいるという話も見かけました。これまで存在していたサービスと大きく違っているのは、とんでもない量のパラメータを導入して、これまたとんでもない量のデータを使って学習している、という点です。それによって、これまで見たこともないような結果を得ることができるようになったのです。情報産業は機械学習に大きな力を注いでおり、数え切れないほどのプロジェクトやハードウェアが存在しています。それらの努力が、生成系AIという結果に結び付いたものと思われます。

動作環境の問題

現在の生成系AIは、兆単位のパラメータを使って、大量のデータを学習するということをしているので、テラバイト単位のメモリを備えたグラフィックボード(並列演算が得意なので機械学習に転用されています。)が必要になっています。生成をするだけならば、もっと少ない量のハードウェアで動作するかもしれませんが、それでも一般市民が手に入れられるようなコンピューターでは動かせないようです。

今後、より少ない記憶容量、より少ない計算量で動作させられるような生成系AIの研究開発が進んでいくものと思われます。現在のモデルは、AI開発企業が管理する巨大なサーバーでプログラムを走らせ、世界各地のユーザーが、その巨大サーバーにインターネット経由でアクセスして共同使用する、というものです。そのため、インターネットに接続された環境でしか利用できないという欠点があります。また、競合AI製品を駆逐するような強力なAI製品が現れ、市場を独占したような場合、AI使用において貧富の格差が発生し、市民間での差別が生じかねないという問題があります。また、サーバーの運用費を確保するため、ユーザーがサーバーに入力した情報が、ユーザーの意図しない形で利用される可能性が生じるかもしれません。最初は数十ギガバイト程度のメモリのグラフィックボードを搭載したコンピューターで動作するようなプログラムが開発され、そのうち、スマートフォンのような携帯型コンピューターでも動作するようなプログラムが開発されるでしょう。ハードウェアの進歩も追い風になります。

どこにでも生成系AIがある時代

どのコンピューターでも生成系AIが使用できるような時代が訪れることは間違いありません。もしかすると、その頃には、今では思いつかないような形のAIが登場しており、生成系AIが時代遅れになっているかもしれませんが。

そのような時代に至ったとき、はたして弁護士は社会に必要とされているのでしょうか。

現在の弁護士は、発生したトラブルに対して、法的な見解を提供して、解決するために行動する、ということをしています。AIが進歩していったとき、何かトラブルが発生したとき、それが法的にどのような意味を持ち、どのように解決することができるのか、瞬時に導き出せるようになると思われます。そして、問題解決に必要な各種手続きは、AIの助けを借りれば、簡単に進めることができるでしょう。

そのため、弁護士は必要なくなるように思われます。司法書士や行政書士は、もっと深刻な被害を受けることになります。登記手続きなどは、ひょっとすると、ChatGPTなど現行の生成系AIでも処理できてしまうかもしれません。

しかし、弁護士が果たす役割は、単に法律を適用するだけではありません。相手方との会話などを踏まえて、相手方の感情や思考を見抜き、常に変化する環境を考えながら、どこに話を持っていくべきなのかを考えています。AIが導く結論は、膨大な事例を背景にした、八方美人的なものになりがちです。しかし、場合によっては、残酷にも見える道を進まなければならないことがあります。人間は、そのような選択をすることができますが、AIは、まだ、その地平に立つことはできません。

人間にあってAIにないもの

生成系AIは、莫大な事例をもとに、演算に用いる巨大なパラメータを訓練し、情報を作り出していきます。

ここで問題になるのは、どうやって現実世界の情報をデータ化するのか、ということです。コンピューターはメモリ上に存在する情報しか知ることができないので、現実世界の情報をメモリ上に展開する必要があります。チャットとして入力する文字列や、カメラで撮影した写真が、コンピューターに与えられる情報になります。そのため、入力できない情報をコンピューターが把握することはできないのです。

一方、人間は、個人個人が高性能なセンサー、記憶装置、処理装置を備えた、超々AIです。生きてきた中で必要な情報はすべて記憶していますし、相手と話すときは、その口調、表情、会話速度、周辺環境など、ありとあらゆる情報を感じ取り、リアルタイムで(無意識に)分析しています。

AIは、情報が与えられた場合はその情報を使いますが、与えられなかった場合は既存の膨大なデータを使って情報を予測することになります。そのため、状況を正確に把握することができず、的外れな回答をしてしまうのです。特定のサービスを利用し続けて、その利用履歴から状況を把握することができる場合などは、より的確な回答をすることができるでしょう。しかし、それが限界です。それ以上の情報を持ってくることはできないのです。

ある物事に関して、判断を下すための情報を相当程度抽象化できる場合、AIは威力を発揮します。画一的な手続きは、AIに取って代わられる可能性がとても高くなります。一方、様々な事情が絡み合っており、物事の積み重ねを踏まえて判断しなければならないような場合、AIでは十分な役割を果たせないこともあります。

最後に

以上の考察から、AIが人間に完全に取って代わることは、まだまだ不可能だと思っています。

いつか、その時が来るのかもしれませんが、私が生きている間には実現しないでしょうし、この文章を読んでいる方々が生きている間にも実現しないでしょうから、絶望的な気持ちを持つ必要はないでしょう。

しかし、一般の方々は、より容易に、簡易的な情報を得ることができるようになり、弁護士に求められるものの質が上がっていくことは間違いないと思います。

AIは暴れ馬のような道具ですので、うまく手綱を取って、付き合い方を見極めていく必要があるでしょう。