とある事件で保釈請求をかけたところ、追起訴事件があったことを見落としていた、ということがありました。

同一の被告人に複数の刑事裁判が係属しているとき、保釈を請求するにあたって気を付けなければならないことがあるので、ここにメモしておきたいと思います。

保釈の請求は刑事訴訟法88条1項に規定されています。

第八十八条 勾留されている被告人又はその弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹は、保釈の請求をすることができる。

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保釈の可否は、刑事訴訟法89条や90条に基づき、裁判所が判断することになっています。

第二百八十条 公訴の提起があつた後第一回の公判期日までは、勾留に関する処分は、裁判官がこれを行う。
② (略)
③ 前二項の裁判官は、その処分に関し、裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。

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保釈は、勾留の執行を停止するものなので、「勾留に関する処分」です。刑事訴訟法280条1項により、第一回公判期日前は「裁判官がこれを行う」となっており、刑事事件の審理を行う裁判所は処分を行うことができません。予断を排除して、起訴状一本主義を守るための規定です。

そのため、被告人が勾留されており、複数の刑事裁判が係属しているとき、以下の場合分けが必要になります。(千葉地裁の場合。他の裁判所では提出先が違うかもしれませんので、書記官に確認した方が良いでしょう。)

  • 全ての刑事裁判が第一回公判期日前
    • 刑事訟廷に保釈請求書を提出する。
  • 一部の刑事裁判が第一回公判期日を終えている
    • 第一回公判期日を終えている事件に関しては、事件係属部に保釈請求書を提出する。
    • 第一回公判期日を終えていない事件に関しては、刑事訟廷に保釈請求書を提出する。
  • 全ての刑事裁判が第一回公判期日を終えている
    • 事件係属部に保釈請求書を提出する。

保釈請求に意見する検察官も変わってくるそうなので、きちんと手続が分けられていることがみられます。

次なる問題は、保釈の判断を別々の場所が行い、異なる結論が出た場合、どうなるのか? ということです。これについては、明文の規定を見つけることができておらず、明確に記述されている文献も見つけることができていません。おそらく、全部の事件で保釈が認められなければ、勾留の効力が残ってしまうので、身柄拘束からは解かれないという結論になるはずです。また、認められる場合は、事件数に応じて保釈金も積み上げられていくことになるはずです。