平成26年4月24日,名古屋高裁で,線路内に立ち入って電車にはねられた認知症患者の家族に賠償責任を認める判決が出ました。
 判決を精査したわけではありませんが,認知症の家族には,認知症患者がぶらりと外に出て行かないよう監護する義務があると判断されたようです。そのため,ちょっと目を離した隙に外に出て行かれてしまったことは注意義務違反であり,過失であるという判断に至っています。
 この判断は明らかにオカシイのですが,判決として出てしまった以上,続く裁判でも同じような判断がなされるものと考えたほうがよいでしょう。

 そのため,認知症を抱えた家族は,防ぐことがおよそ不可能な賠償責任リスクを背負うことになります。このリスクに対応するためにはどうすればよいでしょうか。

 ひとつの方法として,認知症患者を外に出さないようにする,ということが考えられます。具体的には,部屋に外から鍵をかける,ベッドに縛り付ける,などです。
 しかし,そのような行為は本人の行動の自由を制限することになるので,監禁罪(刑法220条,3か月~7年の懲役)が成立しかねません。症状に応じた適切な監護である,として刑事責任を免れられるのか,それはまた裁判例が出なければ(誰かが警察に捕まって裁判にならなければ)分かりません。
 そのため,これは別のリスクを生じさせるため,良い方法とはいえません。

 もうひとつの方法として,すぐさま離婚するということが考えられます。
 判決は,配偶者という立場から,監護義務を認めているようです。それならば,配偶者という立場から退けば,監護義務も生じず,過失は認められなくなります。
 本人が離婚に応じなくても,回復の見込みがない強度の精神病に罹患しているとして,裁判で離婚を求めるという道もあります(民法770条1項4号)。
 認知症の配偶者を放っておいた場合は保護責任者遺棄罪(刑法218条,3か月~5年の懲役)になりかねませんが,離婚してしまえば,責任がなくなるのですから,なにも犯罪にはなりません。離婚すること自体を遺棄と考えることもできないでしょう。
 また,離婚後は速やかに別居しなければなりません。同居を続けて事実上は夫婦であると認められてしまうと監護義務が生じてしまいかねません。
 子どもについては,近くに住んでいると監護義務や監督義務が生じかねないので,世話をすることのできない遠方に引っ越す必要があります。自然に引っ越したように見えないと,裁判所が責任逃れの意図を(勝手に)認定してしまうかもしれないので,認知症の気配が出てきたらすぐに避難する必要があります。
 この方法は,とくにリスクを生じさせるものではないので,良い方法といえそうです。

 つまり,家族が認知症に罹患し,それが改善しない場合,家族にとって最も良い方法は,その家族を法律的にも事実的にも切り離すことなのです。法律上,切り離す方法は用意されていますし,裁判上,切り離すことによって責任追及も免れられる可能性が高くなります。

 しかし,こんな結論で良いのでしょうか?
 これが正しい解決方法だと考える人など,どこにもいないでしょう。
 ニュースなどでも誰もが口を揃えて言っていましたが,認知症患者への対応は,社会全体の問題として考えるべきであり,家族にすべての責任を負わせるべきものではないのです。
 個人的には,責任は鉄道会社が負うべきだと考えています。ある人が病気になったとき,その家族が病気が引き起こした出来事の責任を負わなければならないというのは,どうにも納得できません。家族には何の帰責性も無いからです。鉄道の安全を完全に守ることは不可能だというかもしれませんが,認知症患者の家族も行動を完全に制限することは不可能です。それならば,資力もあり,能力もある鉄道会社の方が対処を頑張るべきではないでしょうか。

 いずれにせよ,現在の法制度では,認知症患者とできるだけ早く縁を切るしか方法がありません。これはどう考えてもおかしいので,何らかの立法的あるいは運用上の対策が待ったなしの状況になっていると思います。