気がつけば,コラムが刑事関係ばかり。

 これはいかん! 刑事しかやっていない事務所なのかと思われてしまう!

 ということで,民事について書こうと思います。テーマは「書面」。民事訴訟では,とにかく書面が大切です。訴訟が最終段階に至ると当事者の話を聞くという手続が行われるのですが,裁判官からは,話す内容をあらかじめ陳述書という形で提出してくださいね,と言われることがあります。じゃあ当事者の話なんて聞かなくてもいいじゃん…と思ってしまうのですが。

署名と押印の威力

 書面が証拠として使われるとき,ほとんどの場合は「その書面を誰が作ったのか」ということが重要な情報となります。たとえば,太郎くんが花子さんに「貸したお金を返してほしい」と訴訟を起こした場合,太郎くんは金銭消費貸借契約書という書面を証拠として提出して,自分が花子さんにお金を貸したことを立証します。ここで,どんな契約書でも出せばいいというものではありません。太郎くんと花子さんが,内容を確認して,そこに書かれたとおりの内容で合意しましたということが示される契約書でなければ,意味がないのです。それを示すのは,書面の内容と,書面に記された太郎くんと花子さんの署名です。自分の名前を書き入れるということは,その名前の人物が,書面の内容を確認したということを示すのです。

 これは法律にも定められており,「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。」(民事訴訟法228条4項)とあります。私文書というのは,一般の市民が作成する書面ということです。真正に成立したというのは,その書面の内容が裁判上認められるということです。

 また,日本では,印鑑というものが署名の代わりに広く使われています。そのため,押印だけでも,署名と同じ効力があります。ただし,ここで言っているのは裁判上の話ですので,何かの手続などで両方が求められる場合には,それに従った方がよいでしょう。

 さて,ここまでの説明で,「ちょっと怖い」と感じるところはなかったでしょうか。

 署名または押印(実印でなくてもよい!)があると,その書面は真正なものとして扱われてしまいます。ということは,自分の署名があったり,印が押されていたりする契約書があると,その内容について知らなくても,そこに書かれた内容の合意がなされたと扱われてしまいかねない,ということです。とはいえ,よくある三文判が押されていれば「そのような印はどこでも手に入る」と反論できますし,自分の使っている印鑑と異なれば「持っている印鑑と形が違う」と反論できます。また,その他の状況から考えて署名するはずがないといえるような文書であれば,そのような反論も可能です。そのため,何も関わっていないのに契約書が作られた,ということが問題になることはほとんどないでしょう。また,そのような行為は私文書偽造罪にあたるので,犯罪行為です。

 それよりも心配すべきは,内容をよく確認しないままに署名や押印をしてしまうことです。

 署名や押印があることによって,外部の第三者(裁判官など)は,「その内容で了解したんだな」と思ってしまいます。そして,署名をした人は「内容を確認していない」ということを,証拠をもって示さなければなりません。これがとても大変なことで,その証拠となるのが自分の供述だけ,ということになると,滅多なことでは認められません。

 自分の名前を書くときは,よくよく注意しましょう。トラブルになっても後から何とかなる…というのは,甘い考えですよ。